ストレスチェック義務化(50名未満) よくある誤解

『社長は個人の検査結果を見ることはできません!』ストレスチェックを「健康診断」と勘違いしていませんか?

先日、私がカウンセリングやコンサルティングの現場である事業主の方から言われて、思わず「?」と固まってしまった言葉があります。

「ストレスチェックって、要するに健康診断のメンタル版でしょ? 誰が引っかかったか、後で会社にリストが届くんだよね?」

すでに義務化の準備を進めている事業主の方であれば、答えは「No」だとおわかりかもしれません。

しかし、同じような勘違いをされている事業主の方は他にもいらっしゃるのではないでしょうか?

血液検査の結果と同じだと思ったら大間違い!

では、ストレスチェックと健康診断は、何が決定的に違うのでしょうか?

ストレスチェックと健康診断は、どちらも労働安全衛生法に基づき、国が事業主に義務付けている制度です。従業員の心と体の不調を未然に防ぎ、元気に働いてもらうための健康管理という点では共通しています。

しかし、最大の違いは2点「結果を会社が把握できるかどうか」「従業員に受ける義務があるかどうか」です。

健康診断とストレスチェックの違い

  • 一般の健康診断: 目的は病気の「早期発見と治療」です。
    従業員にも受診義務があり、結果は会社と本人の両方に届きます。そのため会社が全員分を把握し、必要に応じて受診を指示できます。
  • ストレスチェック: 目的はメンタル不調の「未然防止(一次予防)」です。
    従業員が受けるかどうかは「自由(任意)」であり、結果は本人だけに直接届くため、会社が勝手に見ることはできません。ストレスチェックの結果は重要な個人情報であり、事業所内・外部の「ストレスチェック事務従事者」および「ストレスチェック実施者」が厳重に保管します)

結果は社長にも秘密?「本人の同意なしには絶対に会社にバレない」法的仕組み

「高ストレス者が誰か分かれば、会社から声をかけてケアできるのに……」と思われる社長もいらっしゃるかもしれません。

しかし、とりわけ誰が高ストレス者かという情報は、法律で厳重に守られた「究極の個人情報」です。

私たちストレスチェック実施者には法律上、非常に重い守秘義務が課せられており、本人の明確な同意がない限り、たとえ雇い主である事業主からの要求であってもストレスチェックの検査結果を開示することは絶対にありません。

もし、本人の同意なく会社が結果をのぞき見したり取得したりすれば、労働安全衛生法や個人情報保護法などの法律違反(罰則や損害賠償のリスク)に問われる重大な違法行為になります。

具体的には、以下のようなルールで従業員のプライバシーが鉄壁に守られています。

従業員のプライバシーを守る鉄壁

  • データは会社をスルーして本人へ: 外部のストレスチェックシステムの提供事業者を利用した場合、従業員が回答した内容は、会社のパソコンやサーバーには残りません。事業場外部のストレスチェック実施者やストレスチェック実務従事者が直接回収・採点し、本人に直接通知されます。
  • 「高ストレス者の一覧表」は存在しない: ストレしチェエク実施者から会社へは、個人名を除いた「集団分析データ(部署ごとの傾向など)」しか渡されません。社長の元に「我が社の高ストレス者リスト」が届くことは100%ありません。
  • 会社が結果を知る唯一のルート: 会社が結果を知ることができるのは、従業員本人が「今の状態がつらいので、医師の面接を希望します」と、自分から会社に申し出たときだけです。

「絶対にバレない」という安心感、従業員が自分の心と真っ直ぐ向き合うための基盤

もし「結果が社長に筒抜けになるかも……」という不安が従業員に1ミリでもあるとしたら、従業員はどのような回答をするでしょうか?従業員は、自分を閉ざし無難な回答や、自分を偽った回答をしてしまわないでしょうか?

これでは、従業員自身が自分の本当のストレスに気づくことはできません。

さらに、そうした「虚偽の回答」をもとに集団分析をしたとします。果たして、本当に改善すべき職場の課題が見えてくるでしょうか? 当然、データの信頼性はガタガタになり、せっかくの時間と費用がすべて無駄になってしまいます。

一見、このように従業員の個人情報を徹底して守るストレスチェック制度の運用は、会社にとって不便でじれったいものに見えるかもしれません。

しかし、この「会社・社長に絶対にバレない」という圧倒的な安心感(基盤)があるからこそ、従業員は初めて本音で回答し、自分の心と真っ直ぐ向き合えます。

そして、会社側も、職場環境を良くするための「本当に価値ある情報」を得ることができるのです。

まとめ

ストレスチェックの仕組みが「健康診断とは全く違う」理由、お分かりいただけたでしょうか?

会社に結果が届かないのは、不便なのではなく、「本音のデータ(本当に価値ある情報)」を集めて、従業員が自分の心身をケアし、組織をよりよくするために、必要不可欠な防壁なのです。

従業員が安心して自分のストレスに本音で向き合える環境を整えてこそ、会社は正しい現状(集団分析)を把握し、より良い職場づくりへと動くことができます。

とはいえ、社長さんの中には「結果が見えないなら、結局、誰がメンタルを崩しそうか分からないじゃないか」「そんな検査に意味があるのか?」と、新たな疑問が湧いた方もいらっしゃるかもしれません。

次回は、経営者はストレスチェックの本質的な価値をさらに深掘りしていきます。

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羽利 泉(はりいずみ):株式会社ラーニング・ライツ代表取締役

公認心理師(国家資格)・精神保健福祉士(国家資格)・ストレスチェック実施者・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー:石川県金沢市を拠点に、社会人向けの教育研修、ワークショップ、メンタルヘルス・ハラスメント相談窓口、組織開発などの事業を行っている。 【詳細なプロフィールはこちら】

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