前回のコラムでは、「体制ゼロからのスタートで大丈夫」「ストレスチェックの義務化は会社を強くするインフラ投資」というお話をしました。
では、ゼロから体制を整えていくにあたって、社長が一番最初に取り組むべき「1歩目」とは何でしょうか? ストレスチェックの実施業者の手配でしょうか? それとも社内担当者の選定でしょうか?
いいえ、違います。 すべてのプロセスの起点となる最も重要なアクション、それは「事業主(社長)による方針の表明」です。
なぜ外部業者選びや担当者決めよりも先に、社長の言葉が必要なのか。今回は、制度を形骸化させず、社員との信頼関係を深めるための「最初の1歩」について解説します。

目次
すべての始まりは厚労省マニュアルにもある「事業者の方針表明」
厚生労働省の『小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル』を開くと、実施体制を構築する一番最初のステップとして「事業者による基本方針の表明」が明記されています。
なぜ、これが何よりも先に来るのでしょうか?
もし、社長からの説明も何もないまま、突然「来月からストレスチェックをやります」とテスト用紙やメールが届いたら、従業員はどう思うでしょうか? 「会社は自分たちを監視しようとしているのでは?」「メンタルに問題があると評価を下げられるのでは?」と、強い警戒心を抱いてしまいます。
これでは、本音で答えるための安心感など生まれません。
だからこそ、「なぜ我が社がこの制度を導入するのか」「会社として従業員の健康をどう考えているのか」というメッセージを、まずトップである社長自らの言葉で社内へ発信することが不可欠なのです。
マニュアルの文章を棒読みしても、社員の心には届かない!
厚労省のマニュアルには、社内通知に使える素晴らしい「方針の表明例(例文)」が掲載されています。法律上必要な要素が網羅された、とても整った文章です。
しかし、このマニュアルの文章をそのまま朝礼で読み上げたり、メールで転送したりするだけでは、残念ながら社員の心には届きません。 「どこかに書いてあった文章をそのまま伝言ゲームで渡されただけだな」と受け取られてしまい、社員の警戒心の壁を壊すことはできないのです。
制度を形骸化させないためには、マニュアルの言葉に「社長自身の生身の思い」を乗せて伝える必要があります。具体的には、次の3つの思いをメッセージに込めてみてください。
そのまま使える!社長の想いを届ける「トップ表明」の言葉
「そうは言っても、自分の言葉でどう伝えればいいか分からない」という方のために、社員の警戒感を解くための具体的なメッセージ例を作成しました。ぜひ朝礼や社内通知の参考にしてみてください。
【社長の方針表明メッセージ例】
「社員の皆さんへ。我が社では来月よりストレスチェック制度を導入します。目的は皆さんを評価することではなく、皆さんが自分自身のストレスに気づき、そして会社が『皆さんが安心して元気に働き続けられる環境』を作るためです。
ストレスチェックの回答結果が、私や上司に見られることは絶対にありません。日々の仕事の中で抱えている本音を、どうか強がらずに教えてください。皆さんからいただいた声を元に、会社としても本気で働きやすい職場づくりに取り組んでいきます。」
まとめ:義務化をチャンスに変えるのは、社長の「ひとこと」から
ストレスチェックの導入は、決して「メンタルが弱い人」を探し出すための検査ではありません。 むしろ、ゼロから体制を整えるプロセスを通して、「会社は社員一人ひとりを大切に想っている」という経営者の姿勢を示す絶好の機会です。
「体制がない」からこそ、ポータルサイト「こころの耳」などを上手く頼りながら、自社に合ったインフラを一つずつ作っていけば大丈夫。
そして、その記念すべき最初の1歩は、難しい法律の知識でも高価なシステムでもなく、「社員の健康と働きやすさを守る」という社長自身の温かい言葉から始まります。
この「ひとこと」を踏み出すことで、ストレスチェックは単なる義務やコストから、社員との信頼関係を深める「未来への投資」へと変わっていくはずです。