コラム ハラスメント

パワハラは決して個人間や事業者だけの問題だけでない

今回は、パワーハラスメント(以降:パワハラ)について書きます。

パワハラは、働く人の3割が受けたことがあると回答している労働問題です。いじめや嫌がらせの相談は、県の労働局の相談窓口に持ち込まれる相談で最も多いものです。

かくある私も過去に勤務していた会社で受けたことがあり、メンタルヘルスの悪化を必死で食い止め、受けている間は、退職・転職を考えながら、日常業務に取り組んでいたことを思い出します。

パワハラ防止法(改正労働施作総合推進法)とは

パワハラ防止法という法律が、実際あるわけではありません。

労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)」の2019年5月の改正により、第九章 第三〇条二〜八で、職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して講ずべき措置等が定められたことによる通称です。

労働施策総合推進法の目的は、パワハラの防止に限ったものではなく、下記の通りです。

第一条
国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。

この法律の運用に当たつては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。

私たちが直面する、労働関する難題については、すでに国が政策を打ち出し、事業者が講じるべき措置や、事業者や労働者がどんな努力をすべきかは、すでに法律の中に示されています。

パワハラのほか、求人、募集、採用、職業訓練、再就職、雇用機会の拡大、外国人の雇用に関する措置や責務について法律には示されています。

事業者は、これらの領域で講ずるべき措置について部分的に知っていて、すでに実施済ということもあろうかと思います。

自社が抱える頭を抱える問題であったとしても、全く出口がない訳ではなく、講ずるべき措置や国が推進する事業などの実践が突破口になるはずです。

まだ着手していないことがあれば、行動を起こしていきましょう。

多様な人々が活躍できる社会になるために

労働施策総合推進法には、生産年齢人口が減少していくわが国において、人手の足りない企業が採用に追われながらも、労働者の雇用の安定や職業能力の開発のため国・自治体、事業主、労働者が努力しなければならないことが総合的・横断的に示されています。

働く人の人口が減る中で、すでに働いている人だけでなく、これまで働いていなかった人たちが労働市場に加わります。

例えば、

定年退職していた人が主体的に組織に残って、引き続き能力を発揮し続ける。

障害者の法定雇用率が上がって、合理的配慮が必要な障害を持った社員とごく当たり前に仕事をすることになる。

外国人労働者の出身国の傾向が変わっていき、国民性や文化の違いを理解して一緒に仕事をしていく。

働く環境は、刻々と変化していきます。

それに合わせて、働く人々の思考やコミュニケーションの受発信スタイルも柔軟に変わっていかなければなりません。

人が足りない組織は、働く人それぞれが、組織の目的や目標を見失わず、自主性を発揮して、限られた時間の中で成果を出していかなければならない中で、

「パワハラは百害あって一利なし」です。

そして、生産性の向上に限らず「多様な人々がやりがいを持って活躍できる社会」へとたくましく歩んでいかなければなりません。

そのためには、自分がこれまで作り上げてきた価値観やコミュニケーションのスタイルによって、

不快さを感じたり、傷ついたり、人権を侵害されたと感じ、働きづらさを感じている人がいるかもしれない、ということを1人1人が自覚しなければなりません。

パワハラは個人間の問題であり、事業者・社会全体の問題である


労働施策総合推進法が改正されて、パワハラ対策を事業者に講じるように国が法律に明記しているということは、パワハラを受けた当事者、パワハラをした行為者だけの問題ではなく、

事業者はもちろん、国の問題、社会問題として十分に認識する必要があります。

パワハラ受けた当事者の苦悩が深刻化し、心身の病に発展すれば、例え、離職したとしても、仕事を継続することができない心身の状態になることも多いにあります。

離職した人の家計が破綻すれば、家族が路頭に迷う問題に発展します。

中高年のひきこもりの状態にある方が、パワハラを経験したことで働けなくなったという事例は決して少ないものではありません。

本来はまだまだ働ける人が労働市場から離脱するのは社会の損失です。

本人の職業生活がや生命に関わる問題(うつ病・自殺)に発展すれば、労災や訴訟により、事業者はより大きな問題を抱えます。

離職による人員不足が慢性化すれば、労働者は疲弊し、組織は、業務上の安全が維持できなくなり事故が起きたり、人が足りないことで事業の存続に影響を及ぼす組織も出てきます。

対策を講じない事業者は、パワハラを受けた本人だけでなく、それ以外の方の中からも、信頼を得ることはできません。

とりわけ、まだまだ転職可能な若手や、人手不足の業界で力をつけてきた中堅社員などの中には、虎視眈々とよりよくやりがいが持てる職場を探している場合があります。

パワハラの影響は、表面に見えないところで、まるで虫歯が悪化してくように深刻化している場合もあるのです。

もし、皆さんの組織の中ですでに、パワハラと認識できる事態が放置されていれば、すぐに対策を講じてください。

そして、今は、パワハラが起きていなくても、環境は常に流動します。どうか、防止の措置を取り続けてください。

では、これらの深刻な事態に至る前に、事業者はどのような対策を講じなければならないのでしょうか?

次回に続く

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